《MUMEI》

はっきりしない息子の態度に、道三は嫌気がさした。

「用がないのなら下がれ。俺は、お前が思う程、ヒマではないのだ」

言い放って、ゆっくり腰を持ち上げた父に、新九郎は顔をあげて、言った。

「男として、世間に認められるよう、わたしもそろそろ身を固めとうございます」

突然の台詞に、道三はびっくりした。慌てて息子を振り返る。
新九郎はまっすぐ自分を見つめていた。
道三は息子を見つめて、繰り返した。

「身を固めたいだと?」

気がつけば、新九郎の元服から3年。彼も今年で18になる。
だが、いまだに彼の婚儀について話をしたことが無かった。そんなことは、すっかり忘れていた。

そして、新九郎が自ら、その話を持ち出したとあれば、きっと心に決めた女子がいるのだ、と道三は思い付いた。

道三はまた座り直し、息子をまっすぐ見つめ返した。

「…お前もそのような年頃になったか」

穏やかな声で呟くと、新九郎は目を逸らした。

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