《MUMEI》
・・・・
 目の前には続々と集まってくる街に点在していた兵士共の姿、そして後ろを振り返れば大門が大きな口を広げ、その向こうに青々とした平原が広がっていた。そこはまさに楽園、大門を潜ることができれば彼はうんざりしていた隠居生活ともおさらばでき、晴れて自由の身になれる。
 あと数メートル、そこに自由が待っていた。
 しかし、その自由までの距離はさほど遠くはないのだが、そこには大きな障害が多く存在していた。先も言ったように目の前には兵士の大軍がそれぞれに武器を持ち、好機が来るのを待っていて、大門の前にも兵士がいるのだ。
 「動くなよ」
 目の前の大軍に向け声を張ると後ろを振り返る。
 「あんたたちもだ、変な真似しやがったらわかってるだろうな」
 ペティーナイフをクレアの頬へと翳し、触れるか触れないかというところで止める。いくら果物などを切るナイフとは言え、骨を切るのならともかく、少女の柔らかな肉程度なら簡単に切ることができるだろう。
 ナイフを突きつけられ涙を溜めている少女を見て苦悶に顔を歪める前方の兵士たち。
 後方の大門の前に立っている二人の兵士はおそらく検問を行っていた者たちだろう、対象である犯罪者が目の前に居ると言うのに、拳を握りしめ見ていることしか出来ない。

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