《MUMEI》
・・・・
 何のための検問だったのだろうか?ファースのような人間を捕らえるために設けたはずの検問は人質の無事を第一に考えると何の意味もなく、彼らの苦労は無駄になる。
 言葉で兵士たちを縛り、徐々に後退していくファースとクレア。集まった数十の兵士たちは距離を離さぬようそれに合わせて寄ってくる。少女を盾にしているものの、いつ畳みかけてくるかわからない状態だったが兵士たちもその強行に踏み出せずにいた。彼が特殊な力を持っていることは、それを目の当たりにした兵士たちから聞いていたことだった。神からの贈り物か、それとも悪魔の落し物か。どちらにしようと彼はある力を手にしている。『切断』それが彼の唯一の戦う術だった。眼をもって空間を認知し、想った縦、横、幅を切り裂く。これをこの場で正しく理解しているのは本人のファースのみ。
 他の者は精々、見えない刃が襲い掛かってくる。
 その程度だろう。その漠然とした理解が恐怖を生み、この均衡が続いていた。
 眼で視なければ発動しない力だが、それを知らない者にしてみれば自由自在な透明剣と言ったところだ。

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