《MUMEI》
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手を乗せたのは
今と変わらぬ姿の、フルア
切ない様に、困惑したように、眉を寄せて
紫水晶の瞳を伏せ気味に下方に向けていたが
自分を微笑み、見つめ続ける男を
ようやく見上げた
その手が優しく握られ、引かれて
フルアより数センチ背の高い、
かの男の胸に抱かれる
「………」
フルアは懐かしそうに、
ジンとリツは興味深そうに、その情景を観ていた
[私は愛してしまった]
フルアは笑む
[人間を、愛してしまった]
緑青の草原に寄り添う
天使と人間
二人の唇が重なった
その足下から花々が現れ、
我先にと咲き誇った
二人は体を離した
黒髪の男が再び微笑むと
フルアも僅かに微笑んだ
「…人間を」
ジンが呟いた
[深かった]
黒髪の男は
フルアの手を取って花々の創った道を
歩む
[深い愛だった]
歩みは次第に速まり、二人は駆け出した
[彼は私に二本の足で地に立ち
歩むことの大切さを教えてくれた]
フルアも幾度か躓きそうになり支えられながらも
地を踏み締め続けた
[そしてその様子が宙《そら》に見咎められ
私の翼では宙へ帰ることが出来なくなった]
身を預けていた手が不意に消えて
フルアは前のめりに膝を着いた
[私の愛した人間も…まもなく人間同士の争いに命を落とした]
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