《MUMEI》

黙り込んだ主を見て安心したのか、道利は穏やかな口調で言う。

「…2年程前に元服し、今は名を改めましたが、その破天荒振りは、幼き頃から少しも変わらぬと伺っております。どう考えても、そのような輩が一国を仕切る器には思えませぬ」

家臣が言わんとすることを心得た道三は、ゆっくり天井を仰ぎ見て、「成る程…」と唸るように呟いた。

「…つまり、その信長が家督を継ぎし時が、尾張攻めの絶好の機会と申すのだな?」

道三の言葉に道利は深々と頷いた。

「濃姫様はその間、尾張に『嫁がせる』のではなく、あくまでも『貸し出す』と考えて、後々、こちらに呼び戻せば良いのです…」

道三は尚も黙り込んでいた。
業を煮やした道利は、さらに勢い込んでまくし立てる。

「尾張を統べれば、この国に潜む敵も減りましょう。美濃は安泰を保てます」

道利の後押しを聞きながら、道三は全く別の事を考えていた。

それは自身の息子、新九郎義龍のこと。

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