《MUMEI》

新九郎も、今、齢22。しかしながら、いまだ独り身のままであった。

数年前、道三に対し、「濃が欲しい」と、「許しを貰えなければ力づくで奪う」と、真っ向から宣戦布告したあの時から、ずっと適当な女を娶ることを拒み続けている。

−−−あの時の、

申し立てた時の、息子の自信に溢れた双眸を思い出し、
道三は腹の中で、再び、怒りが沸き起こるのを感じた。

…青二才が、生意気な。
みすみすくれて遣るものか。


道利はすっかり黙り込んでしまった主を見て、おそらくは濃の行く末を心配しているのだと思い込んだ。
道利は言葉を選びながら、言う。

「もし、姫様の身を按じておられるなら、傍付きと称して、間諜を共に潜り込ませてもよろしいのでは?」

その台詞に、
ようやく、道三はゆっくり口を開いた。

「その必要はない」

低い声音に、道利は口をつぐんで、身を引き締める。

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