《MUMEI》 「……魔族を土の肥やしに、この仕組みを敷いたのは魔族だ。飾りモノでしかない魔王をせめて意味在るモノに、とな」 美談だろう、と嘲笑を更に浮かべるハイド 途中、当然聞く事に飽いたらしいクラウスがハイドへと斬って掛る 「……よくしゃべる男だ。少し黙ったらどうだ?」 刃はハイドの腹の肉を抉り、そのまま皮を切り裂いた 飛び散る血液 だがハイドは何の反応も返す事はない 痛いも苦しいも何も 「お前も所詮はヒト、か。この程度で俺を殺れるとでも?」 「何、だと?」 手ごたえは確かにあった しかし倒れる事をしないハイドに訝しんでいれば 「無駄よ。クラウス」 背後からジキルの声 説明を求めるかの様に向いて直れば 両の手に大量のジゼルの花を抱えたジキルが居て ゆるりとハイドの傍らへと歩み寄る 「……魔に堕ちたとは言えあなたは所詮ヒト。真の魔の人であるこの方にかなうはずがない」 魔のヒト、魔族 さりげない言葉で聞かされた事実にハイドの方を見やれば 何故かその表情はひどく楽し気だ 「……お前が、魔族だと?」 驚いた様な顔を思わずしてみせるクラウスへ ハイドは嘲笑に肩を揺らしながら 「お前と、同じだ。クラウス・ブルーネル。俺は魔族を見限った、大した事もせず人如きに殺されてやる様な馬鹿共にな」 「お前……!」 「殺されるより殺す方が楽しいだろう?俺は今まで何人もの魔王が土に葬られる様を見てきた。あの瞬間程愉快なものはない」 言いながら笑う事を始めたハイド 感じられるのは、狂気 ヒトを見限ったクラウスと、何ら立場は変わらない筈だが その質は全く別物だった ヒトの所業に絶望したクラウス そのヒトの所業に悦楽を見出したハイド 一体どちらが正しいのか 答えを出す事など当然出来ない 「邪魔はするなよ。死にたくなければ」 笑みに声を震わせながらハイドゆるり踵を返す 剣を取って出しながら歩く事をし、そしてジゼルの元へ ソレを阻もうと土を蹴りつけたクラウス その行く手をジゼルによって塞がれてしまう 「退け!ジキル!」 「退かないわ。だって、これは必要な事だもの。そもそも何故魔族とヒトが二つに分かれたと思ってるの?どちらかがどちらかを支配する為よ」 「……黙れ」 「救われたいの。だから殺すのよ」 支配される側ではなく支配する側へ、と 楽しげに話すジキルへ クラウスは話も途中完璧にキレ、剣を彼女へと差し向けていた 「私を、殺す?アナタにそんな度胸あるかし――」 言葉も途中に飛び散った血液 身体から斬りおとされた首は血を撒き散らしながら転がりハイドの脚元へ ソレに気付いたハイドが動きを止め、そしてクラウスへと向き直った 「殺ったか」 「……邪魔、だったからな」 「それで?この後はどうする?この小娘を殺そうとしている俺を殺すか?」 ジゼルへと剣先を向けクラウスを牽制して来るハイド クラウスは身を低く構えると、答えるより先にハイドへと向け土を蹴った 鳴り響く金属音、重なる互いの刃 暫くそのままで そして ハイドが先に動く 「心配するな。娘を葬った後、お前にも後を追わせてやる」 嫌な笑みが目の前 耳障りな言の葉を向けられ、クラウスの表情に明らかに怒のソレが浮かんだ こんな世界、いっそ滅んでしまえばいい その想いが更に彼の中で燻っていく やるせなさと怒りが入り混じる複雑すぎる感情にクラウスは苛まれた 何所までも堕ちていく、愚か過ぎるヒトを目の当たりにして 「……迷ってる。クラウス」 立ち尽くすクラウスへ、向けられた細い声 その声に顔を上げれば、ジゼルが意識を取り戻していた クラウスへ向け、ひどく柔らかな笑みを向ける 「……迷う必要なんてない。クラウスの思ったとおりに――」 壊すも活かすも好きにしていい、と 主からの言葉にクラウスは漸く身を動かした ハイドへと素早く脚を蹴って回し ソレをかわすハイドとの間に距離をとる 一瞬出来た隙を借り、クラウスはジゼルを戒めている蔓を斬って 落ちてくる彼女の身体を受け止めた 「クラウス……」 「お嬢様、御慈悲を」 耳元で低く呟くクラウスへ 前へ |次へ |
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