《MUMEI》

自分を見つめたまま、黙り込む父を訝しく思った濃は、先に「父上…」と、口を開いた。

「お話があるのでしょう?」

前置きもせず、いきなりそう言った濃に、各務野はオロオロした。

「姫様、そのように不躾な口を…」

咎めようとした各務野を、道三が苦笑しながら「良いのだ」と制止する。

道三は濃の澄ました顔を見つめ、「不思議なものだな…」とひとりごち、穏やかな表情を浮かべた。

「お前とは血の繋がりは無いのに、その性根は俺とよく似ている…」

父の言葉を受けて、濃はゆるりとひとつ、瞬いた。

「長い間、父上の姿を傍で見ていれば、他人であれ、似てくるのも当然でしょう」

恐れることもなく平然と言い返す濃に、道三はまた、苦笑する。傍で控えている各務野は、気が気ではない。

道三は怒り出すこともなく、相変わらず柔和な顔つきで続けた。

「お前のそういう肝の据わったところを、俺は気に入っているのだ。他の奴らは、そうはいかない。この俺を前にすると、縮み上がって、本心を口にする事を躊躇うのだ。俺の機嫌を損ねるのを恐れてな…」

濃は首を傾けた。

「それは、また情けのうございますね。『美濃の蝮』と謳われても、父上も人の子…そのように恐れる謂われはありませんのに」

飄々と返した娘に、道三は声をあげて笑う。一方、濃の振る舞いに、各務野は気を失いそうだった。

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