《MUMEI》 . 美濃と尾張の間に持ち上がった縁談話は、驚く程、順調に進んだ。 最初にこの話を持ち掛けた平手政秀は、まさか対立していた美濃が、こうしてすんなりと了承するとは考えていなかっただろうから、特に喜んだに違いない。 −−−そうして、 婚儀の日取りが決まり、 後は、輿入れの時を待つだけであった濃のもとへ、 血相を変えて、新九郎が飛んできた−−−。 「濃ッ!!」 大音量で名を呼ぶ兄が、部屋に駆け込んで来た時、濃はひっそりと書き物をしていた。 振り返って兄の姿を見ると、彼は青ざめた顔をして、濃を見つめていた。その肩は激しく上下し、息も上がりきっている。 濃は瞬き、穏やかに尋ねた。 「いかがされました?そのように大きな声をあげて…」 いつもの調子の妹姫を見、新九郎は舌打ちをした。ズカズカと部屋の中に入り、濃の目の前までやって来て、また、大きな声で言った。 「そなた、尾張の三男との縁組を承諾したそうだなッ!?」 濃は兄を見上げ、ゆるりと一度瞬くと、躊躇わず「はい」と答えた。 前へ |次へ |
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