《MUMEI》

.


美濃と尾張の間に持ち上がった縁談話は、驚く程、順調に進んだ。

最初にこの話を持ち掛けた平手政秀は、まさか対立していた美濃が、こうしてすんなりと了承するとは考えていなかっただろうから、特に喜んだに違いない。


−−−そうして、

婚儀の日取りが決まり、

後は、輿入れの時を待つだけであった濃のもとへ、

血相を変えて、新九郎が飛んできた−−−。


「濃ッ!!」

大音量で名を呼ぶ兄が、部屋に駆け込んで来た時、濃はひっそりと書き物をしていた。
振り返って兄の姿を見ると、彼は青ざめた顔をして、濃を見つめていた。その肩は激しく上下し、息も上がりきっている。

濃は瞬き、穏やかに尋ねた。

「いかがされました?そのように大きな声をあげて…」

いつもの調子の妹姫を見、新九郎は舌打ちをした。ズカズカと部屋の中に入り、濃の目の前までやって来て、また、大きな声で言った。

「そなた、尾張の三男との縁組を承諾したそうだなッ!?」

濃は兄を見上げ、ゆるりと一度瞬くと、躊躇わず「はい」と答えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫