《MUMEI》
愚かな者は…
すかさず新九郎が「なぜ!?」と叫ぶように問い返す。濃は兄を見つめたまま、首を傾げた。

「わたしも今年で、もう18…どこの殿方のもとへ嫁いでいてもおかしくはない歳頃です」

平然と言葉を紡ぐ妹に、新九郎は顔を歪ませた。それは怒っているようにも、悲しんでいるようにも、濃には見て取れた。

新九郎は激しく頭を振る。

「そなたの本意ではないのだろう?父上が…蝮殿が、勝手に進めたものだろう?」

兄の言葉に濃は俯き、黙り込んだ。
新九郎はさらに言い募る。

「尾張の三男は、『うつけ』と呼ばれる愚かな輩と聞いている。そのような男のもとへそなたを嫁がせるなど…おのれ父上め、俺を出し抜こうと、くだらぬマネを!」

いつの間にか父を恨む言葉を吐いた兄を、濃はゆっくり見上げた。新九郎は俯きながら、ため息混じりに呟く。

「父上の思惑の為に、そなたを尾張へ遣わすなど不憫でならぬ…」

焦躁に溢れた兄の表情を眺めながら、濃は言う。

「前にも申し上げた通り、わたしは父上に拾われた身無し子…幼き頃に、父上がわたしを美濃へ連れ戻らなければ、わたしはあの山里で、ひっそりと死に絶えていたことでしょう」

濃の穏やかな声に、新九郎はゆっくり顔をあげる。濃はその悲しみを帯びた瞳を見つめ、続けた

「わたしの全ては、父上の意のままに…」

「では、俺の想いはどうなるッ!?」

言葉を遮り、新九郎は叫んだ。その剣幕に濃は黙り込む。

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