《MUMEI》

濃は新九郎の背中を撫でながら、遠い昔に想いを馳せた。


−−−美濃を出て、尾張へ向かえば、

尾張の跡取りの妻として、生きていくことになれば、


ここではないどこかの国で、

眩しい笑顔を浮かべて、野山を駆け回る、

あの吉法師には、もう、会えぬのだ、と。


濃の中で、なにかが終わった気がした。



−−−時が、大きく移り変わろうとしていた。



******



その年の11月。



美濃と尾張、両国の和睦の道具として、

尾張よりやって来た、平手政秀に連れられ、

各務野ひとりを共にし、

濃は、慣れ親しんだ、美濃を旅立った。



その別離を、名残惜しむかのように、

どんよりとした灰色の空から、

真っ白な雪のかけらが、

ひらひら、ひらひらと、

いつまでも、宙を舞っていた−−−。



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