《MUMEI》
・・・・
 剣、槍、弓、その三つのどれかを握っている兵士たちは目配せをしては機を窺うような素振りを見せてはいるものの、飛び出す者は誰もいない。
 彼は瞳だけを左右に動かし兵士を威嚇。ファースの猛獣のように鋭い視線に怯んでしまった。
 「俺は自由になりたいんだ」
 下がりつつ、ファースは重苦しく声にした。王都からの脱出、それはまさしく自由そのものだった。王都では気ままに外すら歩けず、満足に買い物も遊ぶことも出来ない。そんな環境にいつまでも居られるほどファースは気長ではない。よくて三日が限界、今日がその三日目だった。
 「自由になって、したいことを山ほどするんだ。
 金つくって、遊んで。女つくって、遊んで。そうやって人生満喫したいんだよ、そのためにはこの門を出なくちゃなんねえんだ!」
 野望を叫び、後ろを振り向いた。
 槍を握った兵士がアランに迫り、思い切りよく突きを放つ。走り来る足音は耳に入っていて、用意は出来ていたファースは少女を横へ放りその突き穿つ穂先を躱す。
 胸のあった位置を穂が通り過ぎた。勘に頼りしゃがみ込み見事成功。しかしそれが何度も通じるはずもない、ファースの周りは戦闘訓練を受けてきた連中でひしめき合っている。戦うのが得策じゃないことは百も承知、ファースはそのまま兵士の懐へ飛び込み拳を突いた。

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