《MUMEI》

この縁談は、濃の父・斎藤道三と尾張の家臣・平手政秀の二人で無理やりに話を進めたものだ。

おそらくはその縁談の不条理さに、尾張の若殿も腹を立て、抵抗しているのだろう。


…嫌われて、いるのだろうか?


少し、寂しい気持ちになった。

政略結婚とはいえ、濃にとってこれが初めての輿入れ。
お互いの思惑はあれど、普通の女としての幸せを享受したいという、ささやかな『願い』があった。


濃は、ゆるりと瞬く。

凍てついた静寂の中で、身じろぎせずに座っていた濃の視界に、



−−−不意に、なにかが見えた。



それは、広い庭の中で、

ひっそりとこちらを睨みつける、

ひとりの、少年の姿だった………。



******



−−−信じられなかった。


なぜ、彼がここにいるのか。


どうして、わたしの目の前に現れたのか。


さっぱり、分からなかったけれど、


でも、わたしは、


きっと、


いつか、こうなる事は、


こうして、思わぬ形で、彼と再び、巡り会うだろうことは、


分かっていたのだろう………。



******

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