《MUMEI》

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濃は、突然現れたその少年の姿を見つけ、酷く狼狽した。まさか、と思った。

濃は少し腰を浮かせて、少年の姿を眺め見る。


頭のてっぺんで無造作に縛り上げられた髪の毛。
纏っている袖から腕を抜いた片肌脱ぎ。
履いている半袴は虎と豹の皮を交ぜ縫いにしたもの。
腰には長い刀が二本と、瓢箪やら袋やらがぶら下がっている…。


見つめてから、まさか、とまた思った。

…まさか。
まさか、まさか、まさか。

そんな筈は、ない。

だって、《彼》は…。


呆然としている濃に、
少年の鋭い声が飛んだ。

「そこで、何をしている?」

不躾な言い方だった。こっちの台詞だ、と濃は言い返したかったが、唇が動かない。

なぜなら、その少年の抑揚が、
幼い頃に聞いた声に、よく似ていたから。


…なんだチビ、なぜひとりでいる?


まごうことなき、その台詞は、
遠い昔、夢の中で出会った、あのひとの。

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