《MUMEI》 巡り会う二人濃は、瞬いた。高ぶる気を鎮めようと必死だった。 そんな彼女に、少年はため息をつき、続ける。 「なんだ?そんなに俺のことを見て…なにか用か?」 さらに尋ねられたが、混乱している濃は、言葉が出て来ない。少年は諦めたのか、庭から縁側へ登り、汚れた足のまま、ズカズカと濃の部屋の中へ入って来た。 濃は身を強張らせる。 懐に忍ばせていた短刀を、ひそかに握りしめた。 少年はなにも気にせず、濃の眼前までやって来た。 濃は、少年を見上げる。 その顔に、やはり見覚えがあった…。 …この少年は。 そう思った時、少年の表情が、サッと変わった。 濃を見つめる瞳に、驚愕の色がうつる。 淡く開いた唇から、 「お前…」 と、紡ぎ出された言葉に、 濃は、黙り込んだ。 少年はその場に片膝をついて、濃へと手を伸ばし、その、豊かな黒髪をひと房、掬い上げる。 前へ |次へ |
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