《MUMEI》

濃は、すぐ目の前にある少年の顔を見あげ、
ぼんやりと、その名を呼んだ。



「……吉法師」



記憶の中の《彼》と、寸分の違いもない少年が、今、目の前にいる。

…なぜ?

初めて出会った時、吉法師は15歳だった。

あの頃からもう随分と時が流れて、濃は今年で18歳になったというのに、
なぜ、吉法師は老いることなく、あの時のままの姿を保っているのだろうか。


譫言のような、濃の呟きを聞いて、
少年はなにかを確信したように、フッと目元を緩ませる。

そして、髪に触れていた手で、
濃の華奢な顎を掴み、グイッと顔をあげさせる。

すぐ目の前にある少年の目は、
不思議な引力に満ちていた。

しばし、見つめ合った後で、

彼はニヤリと不敵に笑った。


「よくぞ戻って来たな、帰蝶!」


張りのある声で、高らかに彼は言った。

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