《MUMEI》

彼は濃を見つめたまま、またニヤリと笑い、続ける。

「先に言っておくが、この信長、お前がその懐に忍ばせている短刀で刺される程、間抜けではない」

その言葉に、濃は内心ドキリとする。いつ、短刀のことに、気づいたのか。

黙り込む濃に、信長は再び近づき、顔を寄せた。
そうして、凄みのある微笑みを浮かべる。

「蝮に何と言われてやって来たかは知らぬが、今日より俺とお前の戦いが始まる。女子とて俺は容赦はせん。心して置け」

まくし立てる信長を、濃は一心に見つめた。


−−−戦いが、始まる。


それは

尾張の跡取りと、
美濃の蝮の娘という、

お互いの威信を賭けた、


仇敵同士であるからこそ。


信長は唇を弓なりに歪ませ、
微かに、囁いた。

「心行くまで、戦って、戦って、戦い抜こうぞ」



******



−−−この、信長の一言をきっかけに、


わたし達の、


長い…長い戦いの火蓋が、


切って落とされたのだった…。



******

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