《MUMEI》

頭が重い。




「……じ……から……」

鈍く、音が濁ったような聴覚だ。
瞼を開ける前に、眠っていたことを思い出す。


「二郎に何杯飲ませてたんだよ、死体みたいになってる。」


「いや、二杯だったんだけどな……。やべ……ちゅーしたい。」

烏龍茶を飲んでいる間に、酒とすり替えられていたようだ。
七生らしい影が掛かる。
ちゅーなんかしてみやがれ、噛み切ってやる。


「民事裁判だな。俺は二郎の証人側に付く。」


「てめっ……絶対に二郎にしか味方しないよな。」


「二郎に貸したものは返ってくるし。」

確かに、七生はそういうとこがルーズだ。


「この間の二千円は返した。」


「あと、四千六百円な。」

俺は多分、乙矢のその倍くらいだ。


「出世払いで。」

だから、乙矢にいじめられるんだな……。


「……誓約書書かせるぞ?」

音声だけで聞いてるせいだろうか、乙矢ならやりかねないと思う。


「わかった、乙矢は二郎に優しいんだ。」


「違う、二郎だけに優しいんだ。」

なにこの会話……。


「恋人にフラれるぞ。」


「生憎、俺に溺愛だから。」

皮肉も効かないようで、力の差は歴然だ。

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