《MUMEI》 吉法師と信長. …ふと、思う。 那古野城の中、濃の為に設えられた広い部屋。 その奥で、濃は暇を持て余し、美濃から持ってきた書物に目を通していたのだが…。 濃は、読んでいた書物から目を離し、顔をあげた。そのまま視線だけを、傍らに置いてある几帳の向こう側へと移す。 几帳の、逆側から、 日焼けした、逞しい二本の足が覗いている。 その足首を見つめながら、 濃は、口を開いた。 「殿…」 呼びかけてみたが、その答えはなく、 濃の視線の先にある、その足が動くことはなかった。 濃は、もう一度、呼びかけた。 「殿…」 やはり、返事はない。 濃は諦めたように軽く息を吐き、書物を閉じると、ゆっくり立ち上がった。 そうして、几帳の向こう側へ、そっと顔を覗かせる。 −−−そこには、 両の目をしっかり開き、 天井を見据えて、仰向けになって寝転ぶ、 信長の姿があった…。 前へ |次へ |
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