《MUMEI》

彼は一心になにかを考え込んでいるのか、瞬きすらせず、ただ天井の木目を見つめている。

濃は、ため息をついた。

「…起きているではありませんか」

彼女のぼやきに、ようやく信長はゆっくり瞬いた。寝転んだままで、彼はチラリと濃を見遣る。

「当たり前だろう」

そう呟いたかと思うと、彼はゆっくり身体を起こした。それから濃に向き直り、おもむろに胡座をかく。

微かな衣擦れの後、信長は濃の顔を見つめ、ニヤリと笑った。

「お前の前で、無防備に居眠りなどするものか。お前は、あの蝮の回し者…いつ、この首をかっ斬られるか、分からんからな」

皮肉っぽく、そう言うのだった。

濃は、ゆるりと瞬く。

「…でしたら、なぜ、わたしの部屋へ訪れるのですか?」

それは、素朴な疑問だった。
信長は顔を合わせれば、濃に悪態をつくものの、毎日のように足しげく部屋に通って来る。
『蝮の娘』だと警戒するのであれば、いっそ関わらない方が、いいのではないか。

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