《MUMEI》 記憶の中の吉法師は、 確かにぶっきらぼうではあったものの、 どこか、温かさや、優しさを感じた。 けれど、 この信長は… なにかにつけて厭味を口にし、 冷めた目で自分を見つめ、 事あるごとに、『蝮の娘』と言い放つ。 その中のどこにも、 濃が知っている吉法師の、 その片鱗を見い出せずにいた−−−。 …でも。 濃は、俯いた。 信長と初めて、この部屋で出会った時、 彼は、濃のことを『帰蝶』と呼んだ。 その名は、かつてあの吉法師が、 濃の為に授けてくれたもの。 自分が『帰蝶』という名を持つことを知っているのは、 自分自身と、 そして名付け親である、 吉法師だけ…。 . 前へ |次へ |
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