《MUMEI》

ひそかに考えを巡らせる濃を尻目に、
信長は突然、勢いよく起き上がった。

「退屈だ!」

不機嫌にそう叫んだかと思うと、彼はすぐさま立ち上がり、スタスタと部屋から出て行こうとした。

それを、濃が呼び止める。

「どこへ行かれるのですか?」

凜とした妻の言葉に、
信長は面倒臭そうに振り返ると、
ピシャリと言い放った。

「お前には、関係ない」

濃が呆気に取られている内に、
信長は音も立てず、まるで風のように颯爽と部屋から消えていってしまった。

いつもそうだ、と濃はひとりごちた。

…風のように現れて、
全てのものを巻き込み、散々掻き乱した後、
また、風のように去っていく。

信長は、そういう男だった。

ひとり、残された部屋の中で、
濃は人知れず、深いため息をついた…。



******

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫