《MUMEI》
・・・・
 意識を失いこちらに倒れこんでくる男を避けると、彼は振りかえり人ならざる力、『切断』を発動した。目標は立ち並ぶ下町情緒溢れる家二軒、両サイドを視野に叩き込み大雑把に切断、三階部分を削ぎ落とす。バターでも切るかのように、あっさりと真っ二つになった屋根や壁は集った兵士の頭上へと落下、当然兵士たちはどうにか避けようと死に物狂いになり、逃げ惑う。
 バラバラに落ちていく残骸が続けざまに石畳と接触して轟音が連発、耳を塞ぎたくなるほどの爆音が辺りを包んだ。それで最悪の展開は脱出した。兵士たちは瓦礫の向こう側で、こちらに来る手段が無くなった。あとは検問の一人。壁が出来たとはいえ時間を稼ぐ程度、与えられたのはほんのわずかの時間のみ、時間をかけるわけにはいかない。
 「あとはあんただけだ、素直に通してくれたら嬉しいんだが」
 答えは分かっていると言うのに、それでも彼はわざわざ聞く。
 「ま、無理だろうな。あんたたちがそんな優しさ持ち合わせてるわけないもんな」
 わざとらしく肩を竦めて見せつつ歩き出す。能力を過信している彼はもう逃げ切れたものとしていて、邪悪な笑みを浮かべていた。

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