《MUMEI》

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新宿駅南口を出て、歩いて5分ほどの駅ビル。

ファッションブティックがひしめく、そのビルの5階のフロアにある、こじんまりとしたおしゃれなカフェ。
店内は、カップルや、女の子のグループなど、沢山のひとたちで賑わっている。

店自慢の一面ガラス張りの窓からは、新宿の象徴でもある、オフィスビルの群れが、所狭しと立ち並んでいるのが見えた。


−−−その、窓側の二人掛けの席で、


わたしとあかねさんは、テーブルを挟んで向かい合いながら、椅子に座っていた。


「…わたし、このカフェ大好きなの!スイーツが美味しくて、同僚や友達とよく来るのよ」


メニューを開いて、無邪気にそんなことを言うあかねさんをぼんやりながめながら、わたしは、はぁ…と曖昧に相槌を打った。

あかねさんは、わたしの冷めきった様子に気づかず、続ける。


「好きなケーキ頼んで!絶対、ハズレはないから」


目に見えてウキウキしながら、あかねさんは、何にしようかな♪と弾んだ声で呟いた。

わたしは天真爛漫な彼女の姿をしばらく眺めてから、メニューに視線を落とした。
この店は、良い値段がした。ケーキとコーヒーを頼んだだけでも、千円札が2枚は確実に飛んでしまう。

給与面で、けして恵まれた環境にいるわけではないわたしは、散々悩んだあげく、ホイップクリームのトッピングが付いた、アイスココアをオーダーした。それだけで、税抜き900円だった。なんだか理不尽な気がしたが、仕方ないと諦めた。


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