《MUMEI》 . あかねさんは、特製モンブランとアメリカンコーヒーを頼んでいた。コーヒーはブレンドよりアメリカンの方がすき、と、彼女は笑って話したが、わたしはちっとも興味が沸かなかった。 彼女の好みなんて、興味がなかった。もっと言ってしまえば…あかねさんのことなんか、どうでも良かった。 あかねさんはわたしにほほ笑みかけて、言った。 「…この前は、ごめんなさい。急に、あんな話をしてしまって」 わたしは、え?と尋ね返す。この前って、なんのことですか? わたしの問い掛けに、あかねさんは頬を朱く染めた。彼女ははにかむようにして、目を細めた。 「結婚の話…突然で、驚いたでしょう?」 彼女の言葉に、わたしは、ああ…そのことですか、と適当に答えた。本当に、適当だった。まともに答えたくなかったのかも、しれない。 わたしはあかねさんを見つめ、呟いた。 「急な話でしたからね。まさか、尚が…兄が結婚するだなんて、考えもしませんでしたから」 あかねさんは、フッと笑った。わたしも同じです、と呟いた。 わたしが眉をひそめると、彼女は悪戯っ子のようにほほ笑んだ。 「わたしも、考えもしなかった…中川くんと付き合ってはいたけど、まさか、結婚することになるなんて、ね」 その台詞を聞いて、わたしは今度こそ驚いた。 彼女の言い方から、尚とあかねさんは、 少なくとも、結婚を前提とした付き合いをしていたわけでは、ないのだ。 . 前へ |次へ |
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