《MUMEI》

彼が何を望んで居るのかをジゼルは理解し
何を返す事もせずクラウスの頬へと手を伸ばし
引きよせ唇を重ねる
「……慈悲を、あげる。だからクラウス。傍に、居て」
「仰せのままに」
返してやりながら手の甲へと口付けて返し
次の瞬間、ジゼルの背に現れる漆黒の羽根
黒の彩りが辺りに散らばり、全てを覆い始める
「……こんな世界、もういらない」
ジゼルの呟き
段々と降り積もっていく羽根を無感情に眺めながら、ジゼルはハイドへと向いて直る
「……救ってなんてやらない。アンタもヒトも、居なくなればいい」
「お前、一体何を……」
「こんな世界、もう要らないから」
全て消えてしまえばいい、と改めて呟きながら
降る黒は益々その量を増し、積もっていくソレにジゼルは一瞥を向ける
「もう殆ど壊れてしまってる世界だもの。……さっさと壊してしまえば良かった」
その声を聞き
まるでソレを合図に、羽根はその全てを鋼の様な鋭いソレへと姿を変えていた
無数に舞うそれら全てが一斉に飛んで散って行けば
至る所からヒトの叫ぶ声が聞こえてくる
「小娘、お前……!!」
目の前に広がっていく惨状にハイドは明らかに己を取り乱させる
刃を刺し向けられ
だがそれを瞬時にクラウスの刃が弾いて退けていた
「……終わりだ。ハイド」
刺す様な視線をハイドへと向けるクラウス
自身の剣を素早く逆手に持ちかえると、その動きに逆らう事無く首を斬って落としていた
倒れ逝くその身を見下ろしてやりながら、クラウスは無言で
世の救済のため一方的に魔族の血肉を求めたハイドの身体を
滅び逝くだろうヒトの世のせめてもの餞に、と土へと還してやる
ヒトに還ろうとした魔族の成れの果て
だが哀れなどと同情の念など向けてやれる筈もなかった
ゆるりクラウスは踵を返すとジゼルへと歩み寄り
何の感情もなくその様を眺めていたジゼルの前へと片膝をつく
差し出された手を受け取り、その甲へと口付けてやれば
抱きあげろ、と唐突に強請る
クラウスはその通りにジゼルを横抱きにしてやった
「……結末は、変えられましたよ。お嬢様」
絵本とは別の、自分たちにとって都合のいい結末に、と笑いながら
その笑みにジゼルは返す事はせず、クラウスの首へと腕を回し強く抱き返してくる
その様に、クラウスは浮かべていた笑みを困った風なソレへと変える事をしていた
「……今は、何を見る事もなく、このままで」
全てを失っていく最中の人の世を眼下に見下ろし、そして
クラウス達は帰路へと着いたのだった……

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