《MUMEI》 正直、死んだ方がマシだと思った。 細々とした仕事をこなして続けてやっと撮れた映画は当たらず、頭を下げて回った。 やることも無い。 家には誰も居ない。 ただ、フラフラしている。 飲めないくせにバーに入ってみた。 苦手なアルコールの口直しに珈琲を頼みたくなったが堪える。 更に運悪く団体が入って来た。 アルコールよりも頭にキてしまう騒音だ。 「お、歌えんじゃーん!」 カラオケ付きの個室に向かって既に出来上がっているらしい男は叫ぶ。 決して気品があるとは褒められない女二人の間に挟まられている。 今日も俺には静寂も平穏も訪れない。 『はーい! たかとおひかる、うたいまああああす!』 マイクが反響し、奴がまだ未成年だということを一瞬、忘れさせた。 歌うだけ歌い、酔い潰れた光を誰が連れて帰るかでときまきの女達が揉めていた。 「あんた、家反対方向でしょう!」 「あんたこそ、この間介抱したじゃない!」 「じゃあ、方向同じで初介抱の俺が。」 俺も酔っ払って足元が危ういが、奴は刃傷沙汰に巻き込まれかねない危うさがあった。 女達には名刺を渡したが多分、俺と光の映画を知らないだろう。 きっと、バラエティ番組の高遠光しか知らない。 前へ |次へ |
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