《MUMEI》 各務野は、ヤレヤレとため息をつく。 「大切な、大切なわたしの姫様が、これから、かのような愚かな男と共に生きていくなど…わたしは先が思いやられて仕方ありません」 各務野は心配そうな瞳で、濃の顔を見る。 濃は、そんな彼女に淡く微笑んで見せた。 「心配には及びません…殿にはきちんとお考えがあって、そのような振る舞いをなさっているだけのこと…少なくとも、わたしにはそう見えます」 濃は本気でそう思っていた。 確かに、信長は織田家の他の男達とは違い、政事に参加せず、毎日気の赴くまま、暴れ回っている。その破天荒な彼の姿は、噂通りの『うつけ』に見えるのかもしれない。 けれど、 信長の行動には、なにか裏がある。 なにかしらの理由があって、騒ぎを起こしているように思えて仕方なかった。 子供っぽく、傍若無人な彼が、時折に見せる鋭い言動や仕種。 それは賢者がその才能を隠し、誰もが呆れる間抜けを演じているような気がした。 濃は美濃を発つ前に、父・道三から、信長に一国を治める器量がなければ、殺すように言われている。 けれど、未だにそれを実行出来ないのは、その考えがあったからだった。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |