《MUMEI》

濃は各務野を見つめ、また微笑んだ。

「各務野の心配も分かります。ですが、もう輿入れを済ませたわたしは、信長殿の妻。この尾張に恥じぬよう、よき女房になりますよう努力する故…さすればきっと、協力者も現れましょう」

穏やかに言い聞かせ、各務野を黙らせるのだった。



******



那古野城を出た信長は、馬に跨がり、古渡城へと急いでいた。

城下には、沢山の人夫達がひしめき合っていた。理由は単純だった。弟の勘十郎信行の為に、信秀が新しい城・末森城を作らせているのだ。


その人夫達を蹴散らし、颯爽と城下を走り抜ける中、

見つけた姿に、彼は馬のたずなを思い切り引く。


ひとりの男の眼前で、馬を急停止させ、
彼は叫んだ。

「権六ッ!!」

名を呼ばれたその男は信長を見て、サッと顔を強張らせた。人夫達にあれこれ指示を出していたのだが、急にかしこまり、片膝を地面につくと、頭を下げる。

柴田権六。
父・信秀の側近だった。

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