《MUMEI》

「……一分な。」

乙矢はそれだけ言うと部屋から出て行く。


扉が閉まる瞬間、
乙矢が

『愚カップル』
と唇を動かしていた。

後ろめたさもあったが、七生が俺の指を一つずつ唇で辿ってきたので心拍数が罪の意識を掻き消した。




「誰よりも二郎を想うよ。好き、が溢れて止まらないもの。」

胸を高鳴らせる言葉、首筋を触る指、瞬きする数、息を止めて合わさる唇、全ての七生が好きだ。



「……七生に好きって言われるとその倍好きだって思うよ。」


「俺も。二郎が好きって思った倍好きになる。」

愛しいと喜びが生まれて、口の端から笑顔が綻んだ。

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