《MUMEI》
2nd kiss
 翌日、早朝
休日にも関わらず早くに眼を覚ましたらしい篠原は
起きるなり台所にて何やらの作業の真っ最中だった
昨日、ショコラが寝ぼけて大量に出したチョコレート
ソレを使い何かを作っている
「こんなもんか」
味見し、納得がいったのかそれをオーブンの中へ
焼けるチョコの甘い香りが部屋中に漂えば
その匂いに釣られ、ショコラも眼を覚ましたようだった
「……恭弥、甘い匂いがする」
一体どうしたのかと小首を傾げるショコラ
問うてくるショコラに、だが篠原は僅かに微笑んで向けるだけで返す事はせず
服を着替える様促した
ショコラが頷いたのを確認すると、篠原は朝食を作り始める
コーヒー片手に作業を進めていると
「……恭弥」
ショコラの呼ぶ声
支度が済んだのかと振り返れば、まだ寝巻代りのTシャツ姿で
近く歩いてより、どうしたのかを問うた
「服、ないの」
困っている様なショコラの様子に篠原は漸く思い至る
ショコラの服がない事に
今更に気づき、どうしたものかと思い悩みながら
そして篠原はショコラへと自身のシャツを取り敢えずかぶせてやると
出掛けるらしく車へ
そして向かった先は
篠原の知人が営む古着屋だった
「……何?小さい子連れて歩くの、アンタ達の最近のブームな訳?」
入るなり、理解不明な言葉
篠原は何の事かと怪訝な顔して向ければ
「何でもないわ。それより、今日の用事はもしかしなくてもそのお嬢さんの服、かしら?」
用件を先読みされ、僅かな間の後
紙袋を無造作に放って寄越された
「それ、あげるわ。女の子用の服、お代はサービスしてげる」
「……えらく気前がいいな」
余りのそれに、つい疑惑の目を向けてしまう篠原へ
「……アンタといい、田畑といい、本っ当失礼よね」
「日頃の行いの所為だと思うが?」
溜息混じりに言って返せば
相手は深々しく溜息をまた付きながら帰る様手を振って向けてきた
その指示通り、篠原は短い礼で外へ
服を手に入れ、取り敢えず自宅へと戻る
帰ってみれば、出掛けの際にオーブンに仕掛けていった何かがすっかり出来上がっている様で
篠原が中の様子を窺う様にオーブンを開いた
「……恭弥、これ」
漂って来るのは香ばしく焼けたチョコレートの香り
ショコラも覗き込んで見てみれば
其処には小さなフォンダンショコラが並ぶ
「美味しそう……」
「このケーキの材料、何だかわかるか?」
熱々のケーキを、冷ましてやるため皿へと移しながら
意地悪げな笑みを篠原は僅か浮かべながらショコラへと問う
覚えていないのか、首を傾げるショコラへ
「これな、昨夜お前が寝ぼけて大量に出したチョコレートだ」
「ショコラが?」
「覚えてない?」
微かな笑みで問う事をしてやれば首を横へ
テーブルの上に散らばるその包み紙をまじまじ眺め見ていた
確かにその包みは自身のチョコレートのソレで
今更に、ショコラは恥ずかしさを覚える
顔を真っ赤にうるその様に篠原は肩を揺らしながら
取り敢えずは服を着替える様促してやった
「どこか、いくの?」
出来あがったケーキを一つずつ丁寧にラッピングし
大きめの弁当箱へと詰めていく篠原へ
ショコラが首を傾げて向ければ
だが篠原は何を語る事もせず
ショコラの着替えが終わると同時にその手を取る
車の助手席へとショコラを乗せ、やはり何所へ行くかは言う事をしないまま
途中、コンビニで弁当を買うとまた車を走らせていた
季節は紅葉の盛り
車窓から見える景色は様々な彩りで
鮮やかな木々の紅に、驚く様にショコラは見入る
「葉っぱが、紅い……」
「紅葉、初めてか?」
「初めて、見たの。すごく綺麗……」
「外、出てみるか」
僅かに肩を揺らしながら、篠原は車を路肩に寄せたショコラを促し、外へと出てみれば
更に色を増して見えるそれらに、ショコラは益々眼を輝かす
「凄い……」
「丁度見ごろだな」
上ばかりを見上げるショコラを背後から篠原が抱き締めれば
その篠原から、今朝方作っていたケーキの甘い匂いが香って来た
「……ケーキ、食べたい」
ソレにつられる様に呟けば、篠原が微かに笑う
ケーキを入れている弁当箱をショコラの前でチラつかせ、そして手の上へ
「景色もいいし、此処で食うか」
彩りを広く見渡せる開けた場所

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫