《MUMEI》
教えてあげようか?
.

彼女は恥ずかしそうにほほ笑む。


「ホントに、びっくりしちゃってね。びっくりと嬉しいのと、なんだか頭がぐちゃぐちゃになって、つい、泣いちゃったんだ…」


それから、あかねさんは、尚との思い出話を、とつとつと、わたしに聞かせた。その話しぶりは、尚との仲を自慢するようにも、思えた。


−−−あかねさんは。


ふと、思った。


あかねさんは、

わたしと尚のことを、知っているのだろうか。


8年前の、あの日のことを、


彼女は知っていて、だからこそ、


こうやって、わたしに対して、


尚の話をしているのではないだろうか…。



疑心暗鬼になったわたしは、
まだ話しているあかねさんを無視して、勢いよく、椅子から立ち上がる。

あかねさんは、びっくりしたように口をつぐみ、わたしを見上げた。


「もう帰る。尚によろしく」


わたしは彼女を見下ろして、言った。
あかねさんは、なにも答えず、ただ困惑したような顔をした。

わたしはそんな彼女に背中を向けかけてから、ふと思いたち、また、彼女の顔を見つめた。


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