《MUMEI》 . 店を出る前に、一度だけ、振り返ってみた。 奥の窓側の席で、あかねさんは真っ青な顔をして、カタカタと小刻みに身体を震わせていた。なにかに、怯えるように。 わたしは一度、瞬くと、すぐに彼女から目を離し、スタスタとビルのエスカレーターへ向かって行った。 ****** −−−ぐちゃぐちゃだった。 醜い嫉妬と、抑えられない怒りと、堪えきれない悲しみと、 そして、どうしようもない自己嫌悪と。 わたしの胸は、それらでぐちゃぐちゃに混ぜこぜになって、 居ても立ってもいられずに、 ひと混みの中を、駆け抜けた−−−。 ****** カフェから出た後、 新宿駅のサザンテラス側出入口のまえにのびる、きれいな遊歩道に、 わたしはいた。 コーヒーショップの傍にあるベンチにひとりで座り、 道行くひとを、ただぼんやりと、眺めていた。 どのくらい、時間が過ぎたのか。 はっきりとは、分からない。 わたしの手は、冷たい風に吹かれて、すごくかじかんでいて、 それが、余計、痛かった。 . 前へ |次へ |
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