《MUMEI》 . しばらく沈黙したあと、 尚が優しく、芽衣…と呼びかけた。 わたしは鼻水をすすって、なによ?とぶっきらぼうに尋ね返した。 尚は、小さく、答えた。 『お前を幸せにするのは、俺じゃないよ』 小さな子供に、言い聞かせるような、穏やかな口調だった。わたしは黙り込む。 尚はつづけた。 『俺は、あかねと一緒にいたい。これから先も、ずっと』 その言葉に、耐えられなかった。 わたしは、もういいよ…と呻いた。尚はまた、芽衣…と呼びかけたけど、わたしは無視して、 はっきり、言った。 「尚が、そんなつまらないヤツだなんて、思わなかった」 吐き捨てるように言うなり、わたしは一方的に電話を切った。黙り込んだ携帯を見つめ、わたしは俯いた。 −−−その、冷たい手に、 温かななにかが、ポタリ…と落ちた。 わたしの、涙だった。 涙の雫は、ぽろぽろとわたしの瞳からこぼれ落ち、あっという間にわたしの手を濡らした。もう、止められなかった。 . 前へ |次へ |
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