《MUMEI》 凍えそうな寂しさ. 尚との、最後の電話が終わったあとも、 わたしはまだ、ベンチに座っていた。 どこか、適当な店にでも入ればいいのに…。 そう思いながらも、 −−−そこから、動けずにいた。 冷たい風に吹かれて、わたしの身体は凍えていて、 肌を刺すような冷たさに、ただ、身を任せていた。 あれから、どのくらいの時間が経ったのか、正確には分からない。 それでも、遊歩道を歩くひとがまばらになったことで、 ずいぶんと長い時間、そこにいたのだと、わたしはぼんやり思った。 冬の、暗闇の中、 煌々と誇らしげに輝くイルミネーションの下で、 なにかから身を守るように、 わたしは、じっと、身を固めていた。 −−−そのとき。 「あの…」 不意に、声が聞こえて、わたしは視線を巡らせた。 そこには、 ひとりの、青年がいた。 目が、合ったとき、 ドキリとした。 彼の、わたしを見つめる、 その鋭い眼差しが、 8年まえの、尚のそれと、 重なって見えたから。 明るくブリーチしたオレンジ色の髪。ヴィンテージ風のレザージャケットに、ダメージデニム。それにコンバースのスニーカーを合わせたスタイルは、最近、テレビで見た、若手アイドルの服装を彷彿とさせた。 どう見ても、わたしより年下だ。 . 前へ |次へ |
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