《MUMEI》 . わたしがなにも答えず、彼を見つめていると、 彼は少し、ばつの悪そうな顔をして、言葉をつづけた。 「あの…あなた、夕方からずっとここに居たんですか?」 わたしは瞬いた。夕方から、ずっと? そうだ…わたしは尚から電話があったときから、ずっとここにいる。 そうやって聞かれて、初めて気がついた。 わたしがなにも答えずにいると、彼はわたしが不審に思っていると早合点したのだろう。慌てて言葉を補う。 「俺、この近くでバイトしてるんですけど、行きにあなたを見かけて…携帯で話してたでしょ?」 わたしは記憶をたどる。 ここで尚と電話をしているとき、通行人がジロジロと意地悪い視線を、わたしに投げかけていた。 その中に、彼がいたのか? 分からない。いたような気もするし、いなかったような気もする。 . 前へ |次へ |
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