《MUMEI》 . −−−彼は、尚じゃない…。 そう自分に言い聞かせ、わたしは彼から目を背けた。再びイルミネーションを見上げる。そこを通るひとは、ほとんど、いなかった。終電が、出てしまったのかもしれない。 「なんで、声、かけたのよ?」 彼は、答えなかった。ただ、まっすぐにわたしの横顔を見つめている。頬に突き刺さるような鋭い視線を、感じていた。 わたしは呻くように、言った。 「なんで、心配なんて、わたしの心配なんか…なんで…」 言っていることが、めちゃくちゃだった。 彼は、尚じゃない。 そんなこと、頭では、きちんと分かっていた。 でも、どうやっても、わたしのこの感情が、言葉で表現することは、出来なかった。 青いライトが点灯するさまを見つめながら、 尚じゃない。 尚じゃない。 尚じゃない−−−。 そう唱えれば唱えるほど、わたしはますます深みにはまっていくのだった。 わたしは震える唇を、ゆっくり動かす。 「なんで、『終わった』なんて、言うの…?」 ぽつんと呟いたわたしの肩を、 隣の彼が、突然、引き寄せ、 わたしの冷たい唇に、 噛み付くようなキスをした。 それは、8年まえの、 《あの日》を彷彿とさせるような、キスだった。 . 前へ |次へ |
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