《MUMEI》

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驚きは、なかった。

だって、それは、キスとも呼べない幼い行為であったし、わたしはもう25歳なのだ。



−−−8年まえの、《あの日》のわたしではない…。



このとき。

わたしの中で、なにかのスイッチが入った。



『欲望』という名のスイッチが。



彼の唇が離れたあと、わたしは尚によく似た彼の顔を見、
ゆるりと瞬くと、ねぇ…と、優しく諭すように言った。


「…違うよ、そうじゃない。本当のキスはね、こういう風にするの」


わたしは彼に、深く口づけた。

渇きをむさぼるようにに、深く、深く。欲望のこもった、口づけ。
蛇のように執念深く、いつまでもあとを引くような、そんなキス。

わたしがゆっくり唇を離すと、彼は熱い吐息をもらした。暗闇の中、その息が、白くぼんやりと浮かび上がる。
彼の顔は、上気していた。ぼんやりとした眼差しを、わたしに向けている。


荒々しい欲望の混じったその視線に、わたしの心は、震えた。


わたしは彼の姿を眺め、それから彼の中心にあるものを、服の上から触れた。服の上からでも分かるくらい、それは、怒ったように、いきり立っていた。

わたしは赤らめた彼の顔を見て、囁く。


「ねぇ…ここにも、キスしてほしい?」


わたしの問い掛けに、彼は泣きそうな顔で、小さく呟いた。


「してほしい…」





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