《MUMEI》

ようやく意識がハッキリしてきた。

「秘密は、鍵をかけておくもの。我が家の教えだ。
レイチェル、僕には二人の兄と三人の姉が生まれる予定だったんだ、人工受精でね。母胎に服毒させ続け奇跡的に生まれたのが僕だ。」

条件が揃うと、記憶は目覚める。


「坊ちゃま……?」

レイチェルは可哀相に、あの女に利用されたんだろう。


「ぼくの家系は代々、毒に慣らした体に作られる。
通常の人間の致死量よりは摂取しても平気で、ある程度の量なら細胞を活性化することも出来る。」

当然、両親はぼくに毒を飲ませた。


「前のニーナが死んじゃったのは知ってるよね?」


「ガスに飛び込んで焼けて死んでしまった……」


「ニーナはぼくが燃やしたんだ。それからはホットミルクに解毒剤やら安定剤を入れられて、すっかり心が平和だった。叔母が、ホットミルクに毒を入れなければね。」

両親はぼくの残虐性に畏怖していた、傾いていた経営について口を出すこともである。
毒は僕の脳を発達させる。
両親はそれを恐れ、解毒剤入りのホットミルクを飲ませた。
彼等の資産の使い方には不満があったし、殺そうかとも考えたからだろう。

しかし、両親が亡くなれば状況が違う。
財産を食い物にする親戚がたかりにくるからだ。
それらから生き残る為には多少の残虐性と頭脳が必要だった。

レイチェルは何故、毒を渡したのだろうか。


「選択したんだな?」

伯母を選び、主人を謀り……。


「気付いたのは旦那様達を殺害した後、奥方様の日記からです。
既に私は裏切ってました。だから坊ちゃまに毒を渡したのです。私を疑うなら飲まないでしょう、二つとも飲み干せば私がまた一人殺しただけ、もし、一つだけならば……」


「じゃあ、此処に立つ僕は奇跡だね。」

そうだ、僕はこの女に殺されたのだ。


「私を裁いてくれますか?」

レイチェルは乳母であり、僕を支えてくれた。


「……僕がレイチェルを裁くはず無いだろ?」

その言葉にレイチェルは笑顔を漏らした。
生きたいのだろう。
生命力に満ちた光を宿した瞳、僕も笑顔で返してやる。





「今日は疲れただろ?さあ、もうお帰り。伯母さまが待ってるよ。」

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