《MUMEI》 それが嘘でも…. 彼は、そんなわたしを抱き寄せて、軽くため息をついた。 優しく、とても優しく、わたしの髪を撫でながら、 穏やかに、囁く。 「大丈夫…大丈夫だから。もう、泣かないで」 それから、彼はわたしの頬に唇をよせ、軽く口づけた。 「ひとりじゃない…俺が、傍にいるから…」 心に染み入るような、優しい彼の声を聞き、わたしはより一層悲しくなって、呻きながら泣いた。 −−−傍にいるから。 彼が放ったその言葉が、たとえ嘘でも、構わなかった。もう、充分だった。 その一言で、その一瞬で、 わたしの渇いた心は、満たされたのだった。 彼の肩にしがみつき、涙するわたしの手を取ると、 彼は、きれい…と呟いた。 わたしが泣き濡れた顔のまま、彼の顔を見上げると、 彼は、わたしの指先に見とれていた。 . 前へ |次へ |
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