《MUMEI》

.




彼は、わたしが落ち着いて、眠りにつくまで、


わたしを抱きしめ、頭を撫でてくれていた。



混濁した意識の中で、



聞こえた、台詞……。



「…初めて見たとき、なんてきれいな女のひとだろうって、こんな風に抱きしめられたらって、そう思って声をかけたんだ…」



−−−それは、


夢だったのか。


それとも、


幻だったのか……。



彼の広い胸に、ぴったりと寄せていた、わたしの鼓膜に、


響いてきた、音。


ドクン…ドクン…と、


強く、烈しく


逞しく、脈打つ鼓動………。





その音の心地良さに、


肌から伝わる優しい温もりに、


…………わたしは瞼をゆっくり閉じる。



彼は長い指で、わたしの髪の毛を弄び、


最後に、こう呟いた、気がした。





「夢みたいだ…」





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