《MUMEI》

「まだ部屋、片付いてないんだ……」

俺を引っ張りあげながら、段ボールを跨いでいく。


「えっへへへ。
楽しかったあ、な?な?」

上手く歩けなくて二郎に突っ込んでいた。


「うん、楽しかったね。飲み過ぎには気をつけて、運ぶ方がもたないから。」

二郎は俺の頭を撫でてあやしてくれる。


「新しい家どう……?」

二郎が帰国するのをきっかけにマンションの一室を借りた。
三ヶ月前に……。


「……段ボール。寝室はあっちだっけ?」

溜息混じりに、二郎にベッドに放り込まれた。


「じろーは寝ないの?」


「ちょっとだけ片付けてからね。寝巻は何処?」


「……一番高いとこ。」

使わない段ボールは積み上げてタワーになっている。


「……ありがと。」

絡めた手を払われた。
感謝の言葉には棘を含んでいた。
掃除しようと何回も思ったんだけれど、ついつい眠くなるんだ……と、心の中で叫んでおく。

目覚めたら、二郎は寝巻を発掘していて、段ボールも半分近く減っている。
疲れ果て、力尽きたのか段ボールの上で眠っていたのには驚いた。
風邪でもひいたのではないかと心配になる。
ベッドに移動しておいた。

決して丈夫な方では無いし、もう二郎一人の体じゃないんだから気をつけてほしい。
その柔らかい髪も薄紅色の唇も長い睫毛の奥に眠る潤んだ瞳も熟した果実のような匂いたつ首筋も華奢な手足も……俺の、大切な人。

二郎の寝息を耳に留めながら朝飯の支度を始めた。
愛する二郎を起こさないようにご飯支度、ささやかな幸せだ。

ずっと夢見ていた二郎との生活がやっと実現したのである。








そう、ここが二人の愛の巣。
邪魔な乙矢達もいない、物音も気にしなくてもいい。親にだって後ろめたさはない、公式に二人の関係を発表したのは二郎が海外に行く少し前だ。

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