《MUMEI》 . 客は、自分の鼻先に手首を持っていき、香りを確かめると、パッと顔を輝かせた。 「すてき!!すっごい爽やかだし、肌馴染みがいいですね!」 彼女のコメントに、わたしは深々と頷く。 「この香りは個性的ではありますが、すごく控えめに薫りますので、プライベートだけでなく、オフィシャルなシーンにも、お使いいただけますよね?」 そう言い切ってから、わたしは香水のサイズと値段をまくし立てて、さらに、大きいサイズが一番お得です、と最後に付け足した。 客はディスプレイされているボトルを眺めて少し悩んでから、やがて心が決まったのか、顔をあげると、明るい声で、大きいやつ下さい!とわたしに言った。 わたしは、そんな彼女に、満面の笑顔を見せて、 「ありがとうございます!」 と、頭を下げた。 会計を済ませ、客を見送ったあと、 近くでそのやり取りを見ていた、派遣仲間の久美子に、肩をつつかれた。 「今日、これで5本目じゃん!!しかも全部、一番大きいサイズ!」 すごーい!!と明るく言ってくる。 わたしはそんな久美子に、ニッコリした。 「まぁね。この香り、わたしも好きだし。なんか愛着がわいたっていうか…」 わたしが得意そうに言うと、久美子は軽く睨みながら、生意気〜!と笑った。 . 前へ |次へ |
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