《MUMEI》 新たな休日. 「なにか、いいこと、ありました?」 ネイリストさんの声に、わたしは、え?と首を傾げた。 ネイリストさんはわたしの指先を見つめて、ジェルネイルを丁寧に塗っていた。今回のカラーは、ヌーディな淡いピンク。 器用に筆を操りながら彼女は、顔をあげずに、ふふっと軽やかに笑ってみせる。 「なんだか、声、明るいですよ?」 彼女のからかうような言葉に、わたしは、そうですか?と肩をすくめてみせた。 「…もうすぐ、兄が結婚するからかな?」 尚は、あかねさんと正式に結婚することになった。このまえ、わたしの両親に、その挨拶に来た。 わたしが話したことを、どうやってごまかしたのかは分からないけれど、尚とあかねさんは至ってフツーだった。ニコニコして、両親と向かい合っていた。 わたしのことは、極力見ないようにしていたけれど…。 わたしの返事にネイリストさんは、一旦手を止め、えっ?と声をあげた。 「おめでとうございます〜。それは、おめでたいですね!」 わたしはほほ笑んだ。 「そうですね、兄が心から愛した女性らしいので…幸せになればいいですね」 −−−尚は。 わたしのことを吹っ切り、ひとりで立ち上がるまで、8年かかった。 8年間苦しんで、 ようやく、再びひとを愛することが、出来た。 きっと、わたしも、 長い戦いになる…。 それでも、絶望は、しない。 . 前へ |次へ |
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