《MUMEI》 . わたしはゆっくりと、相手にかけ直す。本当に、ゆっくりと。もう、焦る必要はないのだから。 数コールのあと、 ガチャガチャと慌ただしく、電話が繋がる。 わたしはほほ笑んだ。そんなに、慌てなくてもいいのに…。 わたしの微かな呟きが聞こえたのか、電話の向こう側で、相手は苦笑する。 「今、ネイルサロン出たところ……うん、分かった。駅前のベンチでいい?」 待ち合わせをしながら、わたしはゆっくり歩き出す。 踏み締めるように、一歩、一歩、しっかりと。 わたしは空を見上げた。 少し、近くなった青い空には、雲が幾筋か、たなびいている。 あの頃……暗闇で必死にもがいていた頃から時は流れ、季節も明るくなっていた。 わたしは、明るい太陽の光に、目を細める。 「分かってるよ〜、もーあんな場所で、泣かないってば!」 声をあげて笑う。 心が、新たな鼓動を生み出す。 ドキドキ…ドキドキ…と、 心地よい、軽やかな鼓動に身を任せながら、 わたしは笑っていた………。 −−−いま、 わたしは、幸せだ。 . 前へ |次へ |
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