《MUMEI》

ユウゴは外を眺めながらコーヒーを口に含んだ。
久々に飲むコーヒーの味はひどく苦く感じられる。
ユウゴはふと気がついてポケットに入れていたトランシーバーを取り出した。
そして音量を調節できないかと側面へと視線を走らせる。
さっきスイッチを入れた時、かなりの大きさで雑音が流れてきたのだ。
あのままの状態でスイッチを入れてしまえば、すぐに注目を集めてしまうだろう。
左の側面を見ると、それらしき黒いダイヤルがあることに気がついた。
「これか……?」
呟きながらそれを回し、スイッチを入れてみる。
やはり雑音が流れてきたが、店内の音楽などに紛れて気にならないほどの音量だ。
これなら大丈夫と納得し、ユウゴはケンイチたちからの連絡を待った。
それから少しして、雑音の中に人の声が聞こえてきた。
「聞こえているか?」
その声はケンイチではなく織田のものだ。
「ああ、大丈夫だ」
「どうやら使えるようだな。こちらは位置についた」
「わかった。それじゃ、目標を見つけたら連絡する。スイッチは切るな」
「……わかった」
ユウゴはトランシーバーをソファの上に置き、外へと目を向けた。

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