《MUMEI》

つか、ゆらって誰だよ。
とは思いつつ、少し話を聞いていると、有り得ないことの数々が陽和の口から溢れていく。

まず陽和を含めた例の四人はそれぞれ大財閥の息子や娘だそうだ。

一宮の親は『一宮グループ』という、世界的に有名なグループの会長、それから澪は世界的に活躍する医療団体、『錦医療法人団体』の総取締役の娘で、永久の両親は、世界中のセレブ御用達の超人気ブランド『T&Y』の社長兼デザイナーなのだそうだ。

だから、幼いころから許嫁という人を決められ、そうなることが決まっているらしい。
ちなみに、永久の許嫁であるゆら、というのは茶道の家元のひとり娘で、全国に弟子がいるんだとか。


俺は、聞いて絶句した。

‥‥なんなんだ。こいつらは‥‥

手からほうきが滑り落ちた。

カシャン、と小気味よい音を立てて、二度三度と小さくほうきの柄が跳ねた。

「なら、お前にもいんのかよ」

多少うんざりしながら尋ねると、陽和は意外にも首を左右に振った。

「いないよ。私にはね。好きな人と結婚したいし」

にっこりといつものように陽和は微笑む。
でも、その瞳にはどこか寂しげな色があった。

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