《MUMEI》
心細いひと
.

正直に答えた俺に、拓哉は、へぇ…と興味なさそうに唸った。それがなんだかバカにされているような気がして、悔しくなった俺は、



「都会と違って、派手に遊ぶ所なんかないしな」



厭味たっぷりに言ってやった。


……すると、


拓哉は、口をきつく閉ざして黙り込んだ。どこか悲しそうな顔をしていた。

言い過ぎたか…と、少し後悔した俺の耳に、

拓哉の声が、ひそやかに流れ込んできた。



「うらやましいな」



−−−うらやましい??



俺が眉をひそめると、拓哉は淡く微笑んだ。

浜に寄せる波を見つめながら、ぼんやりと言った。


「東京には、こんなたくさんの仲間と、こんな楽しそうな遊びなんか、出来る場所なかったからさ」





……その言葉を聞いて、

初めて分かった。


拓哉は、

本当は寂しかったのだ、と。


見知らぬ土地で、見知らぬ人達の中で、



いつも、心細かったのだ、と…。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫