《MUMEI》

.

しばらく黙り込んだ後で、


俺は、素っ気なく、拓哉に言った。


「…早く着替えて来いよ」


俺の声を聞き逃したのか、拓哉は、え?と目を丸くした。
俺は半眼で彼を睨み、続けた。


「ボサッとしてないで、早くスーツに着替えろよ。時間、もったいねーじゃんか」


拓哉はキョトンとしていたが、そのうちニヤッと唇を歪めると、ウェットスーツを手に取り、


「…サンキュー」


と、小さく囁いて、

《ラグーン》の傍にある更衣室へ、着替えに向かっていった。



その後ろ姿を見つめながら、俺は、


知らず知らずのうちに、



微笑んでいた。





******





その日をさかいに、



拓哉はだんだんと、心を開き始めた。


クラスメイト達とも、次第に打ち解けていき、


冗談を言っては、笑ったりするようにまでなった。



そして放課後になると、



俺と拓哉は、バカみたいにサーフィンに明け暮れるようになった。



いつの間にか、拓哉も《ラグーン》でバイトを始めた。



くだらないことで、大笑いしたり、



大きい波に、興奮したり、



ときには、ケンカをしながら、





自然と、一緒に過ごす時間が増えていき、





今でも拓哉は、


俺の、


唯一無二の親友だ。





******

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