《MUMEI》
に.ワルツの後で
「おやおや、アリスは迷子になったのですか。」

振り向くと、長い兎の耳を付けた少年が、微笑んでいた。

「別に、迷子なわけじゃない。」

「じゃあ、どちらに行かれるおつもり?そっちは、崖ですよ。」

言われて、足元に続く道を見る。そちらからは、やわらかな花の香りがした。

「花畑にでも、続いていると思われました?」

小馬鹿にしたような声に、苛立ちを感じる。
舌打ちをしてから、改めて少年に視線を送った。
黒い髪、黒い瞳に白い耳。綺麗な兎だ。

「こっちでいいと思ったんだ。」

「どうして?勘?ふ、たいしたアリスですね。まあ、アリスと言っても」

男の方ですけれどね。
と、極めつけの苦笑い。
ああ、なんだ、こいつは!綺麗で、人形みたいなのに、頭にくるったらない!!確かに、自分みたいな男がアリスとか、エプロンドレスとか、ありえないのは分かってる!
それでも、アリスに生まれた以上仕方ないから、こうして不思議の国を歩き回ってるんだろうが!

「本来、私は逃げるだけで、あなたが追いかけて来てくださるはずですのに・・・。ふと振り向くと、あなたはいらっしゃらない。」
ため息をつかれると、言葉に詰まる。
確かに、ずっと兎を追っていたはずだった。はずだったが、気が付くと見失っていた。

「・・・てめぇの足が、速すぎるんだよ。」

「兎ですもん。」

うわーっ!む・か・つ・く!!!!
でも、分かってる。そうだよ、俺がぼんやりしてたから、こんなよく分かんないとこに来たんだよ。
てか、マジでこいつが来なかったら、死んでたかもだよ、俺。
こいつ・・・。迎えに来てくれたんだよな?
そこまで考えたら、あんまり自分が馬鹿で、少し落ち込んだ。

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